国宝展おかわり

国宝展をおかわりしに行きました。本来の最終日だった日。

朝から行ったら時間と体力が思ったより続き、お天気も良く、久しぶりに敷地内をめいっぱい楽しんだのでメモです。

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」

入り口すぐの洛中洛外図には二重三重に人垣ができて近寄れないほどで、でもその賑わいが洛中洛外図らしくてなんだかよかった(とか思わないとやってらんないくらい混んでいたのだ)。

展示はほぼトーハクの所蔵品なためトーハクファンとしては見慣れた作品ばかりだったはずですが、私の中で新たな発見だったのが「瀟湘臥遊図巻」という横長の山水図です。私の好きな「青磁輪花鉢」「紅白芙蓉図」と同じ南宋時代の作品でした。
3つとも理屈抜きで“なんか知らんけどめっちゃ好きで延々見てれる”んだけど一応言葉にするならば、端整な品の良さがどれにもあると思います。

ちなみに、巻きのはじまりに紙を継いでどでかく4文字が書いてあり人目を引いていましたが(何しろ常用漢字なうえ、とても読みやすい行書だったので)、寄って見ると乾隆帝の仕業でした。あちこち捺してある印も「乾隆御覧之宝」「三希堂」「古希天子」などなど、故宮博物院でさんざん見た乾隆帝のばっかり…。この作品は清朝崩壊後の混乱で故宮から流出したようです。
讃(?)をつけたりハンコいろいろ捺したりっていうのは、今でいう「いいね1回じゃ足りない。連打したい」とか「いいねしようとしたらもうしてた!」みたいな気持ちのやりどころを解決する方法だったんでしょうかね。ちょっとわかるかもしれない。

博物館の歴史に関する展示も見応えがあり、ジョサイア・コンドルによる旧本館のパースが印象的でした。建物に添えた人物(業界用語でいう「添景」)がすごくきちんと描いてあるのです。髪のふくらみや、振り返ったときの衣服のドレープなど、ちょっとしたことですが自然に動きをつけて描きこまれていました。藍や紅の着物の色も当時の女性がよく着ていた色なのでしょうが、ぱちっと絵画的なアクセントにもなっているし、こんな風に描けるのは日ごろから道行く人をよく見てスケッチしていたからだろうと思いました。
やはり一流の建築家は、そこを訪れる“人”にもきちんと意識を向けているのだなあ…。

減衰していないアウラの価値

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴァルター・ベンヤミン

やっぱり実物をじかに見ることってものすごい鮮烈な体験で、わざわざ見に行く価値はそこにこそある、と改めて感じた展覧会でした。
刀剣などは特にそういう性質が強いと思っています。そっちは前回、会期最初の週末に語りつくせないほどじっくり見たので割愛(たまたまお知り合いと合流できて、初めて見た童子切安綱の美しさに大興奮しても挙動不審にならずにすんだ)。

知識や資料はその鮮烈な体験を咀嚼するために援用するのであって、せっかく”本物”を前にして浅い知識で目を曇らせたり、まして写真で済ますのはあまりにもったいないなあと。
先の乾隆帝のどでかい揮毫にしたって、あとで図録で見ようと思ったらカットされていたし…。

本館

国宝がみんな特別展に出ているので、本館の展示もいつもと違う切り口でおもしろいことになっていました。国宝のピックアップ展示スペースで代わりにスポットライトを浴びていたのは、川端康成旧蔵の汝窯青磁。

いつもは東洋館にシレッと展示されていて、知る人ぞ知る…って印象でしたが、今回は箱の蓋裏の「康成」の署名も並べて展示してあり注目の的に。
汝窯の特徴である裏側の3つの点もしっかり見ることができました。

庭園

紅葉は散り始めで、木の姿も落ち葉も楽しめるちょうど良い時季でした。私が都内在住のノマドワーカーだったら、庭園入口でおやつと飲み物を買って、庭園の奥にあるテーブルでパソコン開いて仕事したい。

ふとどんぐりを探してみたらいろんな種類が拾えました。大きいのもある!

どうせならお子さん連れに拾ってほしいな、と目立つところに置いて帰りました。

足元に目を向けたのは大きなクヌギの木を見たからでしたが、クヌギのどんぐりは見つからなかったな。古いはかまは落ちていたので、まだ時季でないのか、結実が隔年だからか…?
いずれにせよ、トーハクを訪れる楽しみをまた一つ見つけました。

東洋館

染織コーナー

東洋館地下の染織コーナーはいつも、時間が無くても必ず見る場所のひとつです。今回は中央アジアの毛織物が展示されていました。『乙嫁語り』に出てくる文様もちらほら。

前にここでインドのカシミール刺繍を見たときはマハラジャの絶大な力を感じましたが、遊牧民族が負けず劣らず手の込んだ作品を作っていたことに少し驚いてしまいました。だって、権力者専用の大規模な工房なんてないでしょ?生きていくだけで厳しい気候だからこそ生まれた工芸でしょうか。

赤系の作品が多いなか、このサドルバッグは暗い茶色でひときわシックな印象でした。妙に鮮やかに写っているけど…白や芦毛の馬に映えただろうな。
ベルベットをはじめ色々な技法が盛り込まれた緻密な織りです。

VR名茶碗体験

8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」

空いてるのかな~とフラフラ近寄り、成り行きで番号札をもらってしまったんですが、これがすごく楽しかった。「今日で最後ですから…」と引き留めてくださった受付の方に感謝です。

これは名茶碗の白模型6種類のなかから選んで手に取って、画面の前で好きなように回したり近づけたり離したりすると8Kの解像度で鑑賞できるというものです。模型は質感だけでなく重さも本物同様だそうで、視覚といい触覚といい想像以上にリアルでした。

一番に手に取った馬蝗絆はサラサラした均質な手触りで軽かったため(錆びた鎹のジャリジャリ感がリアルで爪で剥がしそうにはなったものの)そこまでの実感はなかったのですが、油滴天目、志野焼、と進み、ずっしりした重さや釉薬の手触りに頭がとうとうバグを起こすに至り「あれっ!?こんな大事なお茶碗立って持ってたらまずくね!?」としゃがみかけたほど。

どアップにしてみると、そのお茶碗で薄茶をいただかない限り見えないはずの景色が味わえたし、底もひっくり返して好きなだけ眺められました。端整なイメージの油滴天目の底で、釉薬が分厚い油膜のようにうねっているのが特に新鮮な発見でした。というか、たぶん本来はここまで見ての「油滴天目」だったのだなと。

それぞれの高台のつくりも、繊細に整えてあるのや平らにペタッと貼り付けたようなのや表情豊かで、しかもそれが作品全体のデザインコンセプトをかなり忠実に反映していて、面白かったです。

いろいろなものでできる技術なのでしょうが、お茶碗なのがいいなと思いました。
陶磁器の手触りって割と身近な感覚だからリアルさがよくわかるし、両手で持って使うためのものなので。ガラスケース越しには知りえなかった魅力がたくさんありました。

しかし、複製技術もここまでくると、「いま」「ここに」の価値のありどころも再考せねばならないような…!

複製技術時代の芸術

ヴァルター・ベンヤミン/佐々木基一 晶文社 1999年11月
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